むいしきのいしき

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【怪談】鍋

こんばんは、山根こね子です。

 

 

今週のお題「鍋」

 

になぞらえて、鍋にまつわる怪談を1つご紹介します。

 

これは私が以前働いていた会社の上司が体験したお話です。

 

その日、上司は当時所属していた部署の飲み会のために某地方都市の繁華街にある、ちゃんこ鍋が有名なお店へ車で向かっていました。

 

運転手はお酒が飲めない部下の男性社員がつとめ、助手席には上司が、後部座席には若い女性社員が2人乗車していました。

 

 

初めこそ「鍋楽しみですね〜」「シメはおじやがいいか、うどんがいいか」「まだ始まってもいないのにもうシメの話か」などと盛り上がっていましたが、その日は寒波が到来しており路面は凍結。

 

思うように車は進まず予約時間が迫っていることもあり、運転手に少し焦りが見え始めました。

 

焦っても仕方がないし事故が起きても大変だから、到着が少し遅れる旨を先に到着している仲間に連絡しておこうということになり、女性社員の1人が電話を掛けました。

 

 

「お疲れ様です。すみません、道が混んでて少し遅れそうなんですが…もしもし、もしも〜し」

 

何度か、もしもしと繰り返しています。

 

 

「どうした?電波悪いか?」

 

そう上司が尋ねると

 

「いえ、なんだか騒がしいみたいで」

 

そう女子社員は答えます。

 

 

「なんだしょうがねぇなぁ、もう盛り上がってるのか。電話貸してくれ」

 

そう言い電話を受け取ると、耳に当てました。

 

 

 

騒がしいどころか静まり返っています。

 

 

電話が切れたのかと思い画面を見たが、通話中。

 

 

もう一度携帯を耳に当てると、微かに音が聞こえてきました。

 

 

「もしもし?悪い、よく聞こえないんだけど」

 

そう言うと

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

連絡をした相手は男性社員でしたが、電話から聞こえてきたのは何度もごめんなさいと呟く女性の声だったそうです。

 

驚き、上司は咄嗟に電話を切りました。

 

 

15分ほど遅れてお店に到着したところで、先ほど電話をした男性社員がこちらへ向かってきました。

 

「思ったより到着早くてよかったです!ごめんなさいごめんなさいって何度も仰ってたんで、相当遅くなるんだと思ってましたよ〜!」

 

 

それを聞いて、ギョッとしました。

 

 

ごめんなさいとくり返すあの声は、電話から聞こえてきたものなのか、はたまた車内から聞こえてきたものだったのか。

 

今となれば確認するすべもありません。

 

 

そういう話を聞かせていただきました。