【怪談】大好きなおじいちゃん
こんばんは、山根こね子です。
私は、大学1年生の春に祖父を亡くしました。
とても穏やかで優しくて、目一杯私を可愛がってくれた、そんな祖父でした。
高校を卒業し大学の入学式を1週間後に控えたある日、昼寝をしているときに夢を見ました。
夢の中で、私は昔住んでいた団地の茶の間でテレビを観ていました。
「なんか懐かしいなぁ」と思っていると、2階からガタガタと音がする。
観ていた番組がちょうどCMに入ったので、様子を見に行くことにしました。
階段を半分ほど登ったところでドスドスと誰かがこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてきたので、ふと顔を上げると、そこには顔が緑色に変色した男性が苦しそうにこちらを見ていました。
何故かはわかりませんが、原形をほとんど留めていないながらも、それが祖父だということが瞬間的にわかりました。
「おじいちゃん…?」
そう声を掛けると、まるでゾンビのように両手を前に上げ「ウォォォ」と苦しそうに唸り声を上げながら追いかけてきます。
私は急いで階段を駆け降りましたが躓いてしまい、転びそうになったところで体がビクッと大きく動き、目が覚めました。
私は見た夢のことはいつも忘れてしまうタチなのですが、その夢のことはいつまで経っても忘れることができませんでした。ふとした時に思い出してしまう。
大好きな祖父の衝撃的なビジュアルと苦しそうな声をあげて追いかけてくる姿は思い出すだけで気分が悪くなるので、出来るだけ考えないように、考えなければそのうち忘れるだろう。そんな風に思っていました。
1週間後、私は大学に入学しました。
入学式を無事終え、家に帰って家族で食事を摂っていると一本の電話が掛かってきました。
「はい」
父が電話に出る。見る見る表情が曇り、声のトーンが明らかに下がっていく。
「明日の午前中に伺います」
そう言い、電話を切りました。
「どうしたの?」と母が尋ねると
「警察からだった。じいちゃん死んだって」
父はそう答えました。
続けて、一人暮らしだった祖父を気遣ってくれていた近所の方が最近姿を見ていないと警察に通報してくれたこと、死後2週間ほど経っていること、明日身元確認のために祖父の自宅へ行かなければいけないことなどを話していましたが、正直ショックでほとんど話が入ってきませんでした。
夕食を食べ終わったら入学式が無事終わったことを祖父に電話で伝えようと思っていた矢先の出来事だったのです。
翌日、両親は朝早くから祖父の自宅へと向かいました。
夕方になって帰宅した両親は「連れて行かなくて良かった」と私に言いました。
「緑色だったから?」
気付いたらそう口から出ていました。
母は驚いた顔で私を見ました。
そこで初めて例の夢について話しをました。
両親曰く、祖父は睡眠中突然の心臓発作で亡くなったようで、春先のまだ肌寒い時期だったため、部屋の暖房が付きっぱなしだったことで腐敗が進み、緑色に変色。
約2週間放置されていたため顔は特に腐敗が激しく、よく見ないと祖父かどうか判断がつかないほどだったそうです。
「早く見つけてもらいたくて夢で訴えていたのかもしれないね」母はそう言いました。
もっと頻繁に電話を掛けていれば、もっと早く家族に夢の話をしていれば、綺麗な状態で見つけてあげられたかもしれない。
ひどく後悔しました。
祖父の自宅には、現金30万円と私に運転免許を取らせるのに使って欲しいという旨の手紙の入った封筒が置かれていたそうで、最後の最後まで私のことを想ってくれていた祖父の愛に涙が止まりませんでした。