むいしきのいしき

創作意欲に駆られてます Twitter▶︎@muishiki_ishiki

【怪談】神社の前

こんばんは、山根こね子です。

 

今日は、最近友人のHさんに聞いた話を紹介します。

 

Hさんは大学時代、新聞配達のアルバイトをしていました。

 

いつも3時から1時間半程度、自転車で配達をしていたそうです。

 

ある冬の朝、寝坊をしてしまったHさんはいつもより30分ほど遅れて配達をスタートしました。

 

配達先の神社へ自転車を走らせていると、神社へと向かう石段の前におばあさんが立っているのを見かけました。

 

そのおばあさんは何をするわけでもなく、ただ石段の先にある神社を眺めていました。

 

 

「こんな時間に人がいるなんて珍しいなぁ」と思いながら、おばあさんのいる方へ向かってどんどんと自転車を漕ぎ、石段の前に自転車を停めました。

 

石段を登る前におばあさんに「おはようございます」と一声かけましたが、おばあさんからの返事はありませんでした。

 

 

「耳が遠いのかな」と思い、軽く会釈をして石段を駆け上がり、神社の裏手にある自宅のポストに新聞を投函し、石段を降りようと下を見るとおばあさんの姿はありませんでした。

 

 

神社の周りに民家はなく、一本道のその場所は隠れられるようなところもありませんでしたが、キョロキョロと辺りを見回してもおばあさんはどこにもおらず、不思議なことがあるもんだなぁと思いながら配達を続けました。

 

 

販売所に戻り、ちょうど同じタイミングでお店に戻ってきたYさんというおばさんに先程の出来事を話しました。

 

すると、数日前の早朝に神社へお参りに行く途中だったおばあさんが神社の前で交通事故で亡くなったということを教えてくれました。

 

そのおばあさんは早朝に散歩がてらのお参りが日課だったそうです。

 

 

あの日私が見たのは、亡くなってもなお、いつも通り散歩をしているおばあさんの姿だったのかもしれないと、Hさんは言っていました。

【怪談】通り道

こんばんは、山根こね子です。

 

 

これは私の大学時代の後輩のA君が体験した話です。

 

A君は大学の近くに一人暮らしをしていました。

 

バイトはしていましたが、アニメやゲームが好きなA君は趣味にかなりの金額を毎月つぎ込んでいたため基本的にお金は無く、住んでいたのもボロアパートでした。

 

 

とても大きな部屋とは言えないその部屋でしたが、いつも友人たちの溜まり場になっていました。

 

A君は明るい性格だったので、自然と部屋にも人が集まってくるんだろうと思っていましたが、どうやらそうではなく、A君が友人に声をかけては、毎日かわるがわる泊まってもらっているのだということを知りました。

 

 

「寂しいの?彼女でも作ればいいのに」

 

 

私がそう言うとA君は

 

 

「違うんですよ。怖いんです」

 

 

と真剣な顔つきで話し始めました。

 

 

 

一人暮らしを始めた日の夜のことでした。

 

初めての一人暮らしに期待と不安を抱えながらも布団に入ったとき、ドタドタと走る音が天井から聞こえてきました。

 

 

時刻は夜12時を回った頃。

 

 

こんな時間に子どもを走らせてるなんて非常識な親がいるもんだなぁ。

 

そう思いながら目を瞑っていました。

 

 

 

しばらく音を聞いているうちに気付いたことがありました。

 

 

それは、自分の部屋は2階建てアパートの2階にあるということ。天井の上を誰かが走るわけがないということを。

 

 

これはまずいと思い、ひとまず部屋の電気を付けるために身体を起こそうとしたら何故か身体が動かない。

 

 

「金縛りだ…どうしよう…」

 

 

そう考えていると、走る音がピタッと止みました。

 

 

「助かった!よかった!」

 

 

と思った瞬間、顔にサーッと何かが当たる感じがしました。

 

びっくりして反射的に目を開けるとそこには口を大きく開けた髪の長い女の顔がありました。

 

 

そこでA君は意識を失い、目覚めた時は朝になっていました。

 

 

その日は嫌な夢を見たくらいにしか思っていませんでしたが、次の日もまた次の日も同じようなことが続き、いよいよもって部屋がおかしいのではないかと考えるようになり、夜に1人で過ごすことが怖くなったため、毎日友人を呼んでいたという話でした。

 

 

A君の部屋に泊まりに行った人たちは

 

「あの部屋はヤバい」

「夜マジで天井うるさいから」

 

などと口を揃えて言っていました。

 

 

A君は同じアパートに住むおばさんに自分の住む部屋で昔何かあったりしたのか聞いてみたところ

 

「その部屋自体に特に何かがあるというわけではないんだけど、近所に有名な心霊スポットがあるからね。あなたの部屋がいわゆる通り道になってるんじゃないかって話は聞いたことあるけど」

 

そう話してくれたそうです。

 

 

A君は卒業までそのアパートに住み続けていましたが、身体を壊すことも不幸に見舞われることもなく、今も元気に過ごしています。

【怪談】真っ赤な写真

こんばんは、山根こね子です。

 

 

今日の話は、私が子どもの頃の話です。

 

私の父にはYさんという友人がいました。

 

Yさんとは家族ぐるみで親交があり、毎年8月になると我が家とYさん一家で旅行に行くのが恒例行事でした。

 

その年は、私の家族(父・母・私)とYさんの家族(Yさん・奥さん・息子・娘)の計7人で小樽市のビーチにてキャンプをすることになりました。

 

みんなで砂遊びやビーチバレーをしたり、釣りをしたり、夜に花火をしたり、夏のいい思い出になる楽しい旅行でした。

 

 

例年、2日目は早起きをして観光地を回ってから帰るのが通例だったのですが、その年は朝からYさんが熱を出しひどく体調を崩していたことから、まっすぐ帰宅することとなりました。

 

道中、一度コンビニに寄った際に「Yさん大丈夫?」とワゴン車の後部座席のドアを開けて車の中を覗くと、夏なのにも関わらず、Yさんは唇を真っ青にしてガタガタと震えながら「来るな…来るな…」と苦しそうに寝言を言っており、子供ながらに何か見てはいけないものを見てしまったような気がしてガラガラと扉を閉めました。

 

 

数日後、旅行で撮った写真の現像が終わったので母と一緒に写真屋さんへ取りに行きました。

 

「現像ミスではないと思うが、確認してみてほしい写真がある」

 

店員さんにそう言われ、写真をパラパラと確認していくと、ふと、昼間に海で遊ぶ子どもたちを撮った写真に目が止まりました。

 

 

周りには丸い光が点々と映っている

 

 

そして、その写真は全体が真っ赤でした。

 

子どもたちの楽しそうな笑顔とは裏腹に不気味に真っ赤に染まった写真。

 

 

似たような写真が5枚ほどあり、共通して言えることは、私の父の買ったばかりのカメラを借りてYさんが撮影した写真だと言うことでした。

 

心霊写真は写った人に霊障が起こるというのはよく聞く話ですが、撮った人が…というのはあまり聞いたことがなく、そもそも写真と体調不良は関係ないのかもしれませんが、あまりにも偶然だったので、母と「気持ち悪いね」なんて話をしていたのを覚えています。

 

 

それから心配になりYさんの奥さんに念のために連絡をしましたが、今はもう熱も下がって仕事に行っているとのことでした。

 

しかし、病院へ行っても原因は不明だったと言っていました。

 

 

毎年行っていた旅行でしたが、その年を最後にパタリと行かなくなりました。

 

 

理由は、Yさんがあれからずっと体調を崩し続けていたから。

 

そのうち仕事も辞めて、入退院を繰り返す生活をしていました。

 

 

旅行から3年後、Yさんは亡くなりました。

 

 

肝臓ガンを患っていたそうで、若かったことで進行も早かった。

 

 

「お酒が好きだったからね」

Yさんの葬儀でみんなそう言っていました。

 

 

私は10年以上経った今も、あの写真とあの日のYさんのうわ言の意味が気になって仕方ありません。

 

【怪談】中古車販売店

こんばんは、山根こね子です。

 

 

今日は、先週知人のTさんから聞いたお話を紹介します。

 

 

Tさんは中古車販売店で働いています。

 

 

その中古車販売店は、お店の外に車両がズラッと並んでおり、建物の入り口を入って左手には商談テーブルと待合スペース、右手にカウンターと机が数台並び、カウンターの奥には扉を1枚隔てて事務所があるそうです。

 

 

普段は20時頃までには帰宅できるのですが、中古車業界は3月が繁忙期だそうで、その日は朝から特に来客が多く終業後のレポート作成に時間が掛かり、気付けば23時を回っていました。

 

そのお店の責任者であるTさんは部下たちを先に帰し、事務所で1人締め作業を行っていました。

 

 

シーンと静まり返る事務所に自分がキーボードを打ち込む音だけがカタカタと鳴り響きます。

 

 

すると、キーボードを打ち込む音に混ざって何か別の音が聞こえてきました。

 

手を止め耳を澄ませると、それは人の話し声でした。

 

 

部下が帰ってからかなり時間が経っているが、声は店内から聞こえてきているような気がする。

 

泥棒だとまずいと思ったTさんは事務所の扉を開け、恐る恐る店内を見回すと暗がりの中で待合スペースに置いてあるテレビの電源が付いており、バラエティー番組が流れていました。

 

 

部下たちが消し忘れて帰ったものだと思ったTさんはテレビの電源を切り、「テレビの音も聞こえないほど自分は集中していたのか」などと考えながら事務所に戻りました。

 

 

レポートも出来上がったところで帰る準備をし、事務所の電気を消してドアを開けたところで目の前をスーッと白い影が通りました。

 

心臓がドキッと激しく鼓動を打ったかと思うと、その瞬間先程消したはずのテレビがまたパチッとついた。

 

 

うわー!っとTさんは声を上げて店から飛び出し、ガチャガチャと焦りながらも鍵だけは閉めて急いで家へ帰りました。

 

 

翌朝出勤すると、テレビの電源は消えていたそうです。

 

 

そのお店では、2階の倉庫から足音が聞こえたり女性の目撃証言など、怪奇現象があとを立たないそうです。

 

 

「また何かあったら教えるね」

Tさんはそう言っていました。

【怪談】事務服を着た女

こんばんは、山根こね子です。

 

 

私は霊感はないと自分では思っていて、不思議な体験をするとしても姿を見るわけではなく音を聞くということが多いです。

 

 

そんな私でも、1度だけ「見たかもしれない」そう思う体験をしたことがあります。

 

 

2年前、職場でちょっとしたトラブルがあり、事務処理のため残業をしていました。

 

時刻は20時

 

一旦休憩をしようという話になり、それぞれ1階の喫煙所やコンビニへ出掛けて行き、2階にある事務所には私1人となりました。

 

 

鼻歌を歌いながらLINEやTwitterを確認していると、背後から「ズズッ」と鼻をすする音が聞こえてきました。

 

 

「うわっ誰かいたんだ!恥ずかしい!」

 

そう思い、後ろを振り返ると誰もいない。

 

 

気のせいかと思いもう一度スマホを見ていると、また鼻をすする音に加えて咳払いの音も聞こえてきました。

 

立ち上がり、キョロキョロと見回してもやはり誰もいない。

 

 

疲れてるのかなと思い、コーヒーを淹れに給湯室へ向かいました。

 

マグカップにインスタントコーヒーを入れ、お湯を注ぎ、マドラーでくるくるとかき混ぜていると、こちらへ誰かが近づいてくる足音が聞こえてきました。

 

 

ふと音のする方向をみると、カーディガンの袖から白いシャツが覗く女性の手が右左に手を動かし、給湯室の入り口に掛かっているのれんをバサッバサッと1度ずつめくり去って行きました。

 

顔までは確認ができなかったのですが、コンビニに行っていた後輩の女性社員が戻ってきて私の居場所を確認しにきたものだと思い、のれんから顔を出して

 

「おかえり!」

 

声を掛けましたが、そこには誰もいませんでした。

 

 

 

15分後、休憩を終えた社員たちが戻ってきたところで先程の出来事を話しました。

 

すると「俺も事務服を着た女が横切るのを見たことがある」や「誰もいないのにキーボードを打つ音を聞いた」ということを口々に語り出し、それが皆共通して私の背後に位置する場所での話でした。

 

 

私の勤めている会社は、元々パチンコ屋さんだった建物を改築した場所で、屋上から従業員が飛び降り自殺をしたという曰く付きの物件でした。

 

もしかしたら、社員がたびたび見かける事務服を着た女は、今もここで仕事をし続けているのかもしれません。

【怪談】歌舞伎町には行けない

こんばんは、山根こね子です。

 

 

今日はヒト怖的な話を紹介します。

 

 

これは、知人のKさんから聞いた話です。

 

Kさんは当時、都内の中小企業で事務員として働いており、同じ部署にはKさんの他にI課長、新入社員のTさんが所属していました。

 

小さな会社だったため社員同士の仲が良く、最低月に1度は飲み会が開催されていたそうです。

 

会社から電車1本でいけるということもあり、会場が歌舞伎町になることは少なくなかったのですが、I課長はいつも決まって

 

「俺は歌舞伎町には行けないから」

 

そう言って、歌舞伎町での飲み会には一度も参加したことはありませんでした。

 

 

歌舞伎町中の飲み屋でツケが溜まっているとかヤクザと繋がりがあるとか色々な噂はありましたが、いつも穏やかで頼りになる課長に限ってそんなに危ない問題を抱えているはずがない。きっと奥さんが厳しい人なんだろう、そうKさんは思っていました。

 

 

ある年の秋

 

I課長が12月25日を以て退職する旨が、本人の口から伝えられました。

 

とても信頼していた上司だったのでショックではありましたが、体調を崩した父親の代わりに家業を手伝うことになったということで、受け入れざるを得ない状況。

 

「私が部署を守って行きます」

 

Kさんは涙ながらにI課長に誓いました。

 

 

課長の送別会の開催が決定し、新入社員のTさんが会場のセッティング担当になりました。

 

忘年会シーズンということもありどの飲食店も満席でなかなか席が取れず、Tさんの学生時代の友人が働く居酒屋でやっと1件予約が取れたとのことでした。

 

 

場所は歌舞伎町

 

 

事前に会場を知らされたI課長は一瞬渋い顔をしましたが

 

「最後だしいいか」

 

そうポツリと呟いたそうです。

 

 

12月25日、I課長の最終出勤日。

 

終業後、送別会のため予約している居酒屋へと向かいました。

 

電車を降りるなり、I課長は俯きながら目だけをキョロキョロと左右に動かし、まるで何かを警戒して歩いているように見えたそうです。

 

それでもお店につくと、課長は楽しそうにお酒を飲み、仲間との最後の時間を楽しんでいるようでした。

 

しかし二次会には参加せず、別れの挨拶もそこそこに逃げるように立ち去って行きました。

 

 

12月28日、年内最終営業日

 

Kさんの会社では毎年、その年の最終営業日に大掃除を行ったあと、現金でボーナスが支給されていました。

 

大掃除を終えたところで社長から声がかかり、

社長室に社員が集まりました。

 

 

経理部の部長が鍵を差しガチャリと金庫の重い扉を開けると、中は空でした。

 

 

社員全員分の総額約500万円のボーナスがまるっきりなくなっていたそうです。

 

 

一同騒然。

ひとまず警察を呼ぶことに。

 

 

封詰作業のため早めに銀行から現金を下ろし、24日には作業完了。

 

それから28日まで現金は金庫の中で管理していたが、封詰作業完了後から中を確認した者はいない。

 

金庫を開けられるのは社長と経理部の部長のみ。

 

まずはその2名が疑われ、指紋採取やポリグラフ検査(嘘発見器)などを行いましたが、疑わしいことはなかったそうです。

 

年明け、社員全員がポリグラフ検査を行ったそうですが、誰一人として怪しい者はいませんでした。

 

 

そして、金庫の中には何か固まった粘土のようなものが詰まっていたそうです。

 

 

 

ある日、Kさんは警察官からI課長についてかなりしつこく質問されたことがありました。

 

退職後どこで何をするか聞いていないか

連絡先が取れそうな手段はあるか

退職までの期間に何か怪しい動きはなかったか

 

そういったことでした。

 

 

退職後は父親の家業を継ぐと言っていたことを正直に話しました。

 

ところが、I課長のご両親は既に他界しており、生前の父親は会社勤め。家業は特に営んではいなかったとのこと。

 

Kさんの知っていた連絡先は携帯番号もメールアドレスも既に警察が入手していたもので、いずれももう使われてはいませんでした。

 

 

怪しい動き…

 

 

警察官に聞かれて、ふと思い出したことがありました。

 

 

I課長が退職する1週間ほど前から、たびたび社長室の掃除をしている姿を目撃していました。

 

「掃除なら代わりますよ」

 

声を掛けたこともありましたが、

 

「俺が社長に頼まれたことだから。すぐ終わるし大丈夫」

 

そう断られたため、それ以降は特に気にも留めていませんでした。

 

 

あの時、もしかしたら金庫の鍵の型を取っていたのか…?

 

 

警察にもその話は伝え、怪しい点が多いところからI課長が犯人の可能性が高い状況ではありましたが、証拠がいまいち不十分であることと本人の足取りが全く掴めていないことから、未だに犯人の逮捕には至っていないとKさんは仰っていました。

 

 

事件から数年が経ち、I課長がまだ在職していた頃に一度だけGmailでメールのやりとりをしたことがあったことを思い出しました。

 

 

お久しぶりです。お元気ですか?

 

 

そうメールを送ってみましたが、未だに返事はないそうです。

【怪談】展望台

こんばんは、山根こね子です。

 

 

これは、私が小学生の時に体験した話です。

 

 

私の住む街には小さな山があり、その麓に「Y公園」という大きな公園がありました。

 

 

私の学校では毎年1回、学級レクリエーションというものがあり、クラス単位で催し物を決めて、夏休みに実施するイベントがありました。

 

小学校4年生くらいまでは、ビンゴ大会やドッヂボール大会、縁日など内容的に軽めのものが主流でしたが、高学年になるとキャンプをするクラスが多かったと思います。

 

私が小学校5年生だったときのクラスも例に漏れず、キャンプをすることになりました。

 

 

Y公園はキャンプ場や炊事場が整備されており、アスレチックも併設されていることから、そこで開催することに決まりました。

 

 

当日はお昼頃集合し、軽いゲームをしたあと、買い出し組と火おこし組に分かれて準備を進めてBBQを楽しみました。

 

給食以外にクラスの友人たちと食事をする機会などほとんどないので、みんなとても楽しそうにしていたことを覚えています。

 

 

食後に花火をする予定でしたが、日が落ちるまでまだ時間があるということで1時間半ほど自由時間となりました。

 

 

私は友人のAちゃんとBちゃんと何をしようか話をしていると、クラスのリーダー的存在のCくんが

 

「展望台行くひと〜!」

 

と、仲間を募る声が聞こえてきました。

 

 

Y公園の後ろにそびえ立つ小さな山は、登山道が整備されており頂上までは徒歩で20〜30分ほど。

 

そこには20メートルほどの展望台がシンボルとして存在し、学校からスタートしてゴールの展望台へと向かうのが遠足でのお決まりのコースでした。

 

 

日が暮れるまではまだまだ時間がありそうだし、見知った道。40分もあれば戻って来られます。

 

暇だし行ってみようかという話になり、私たち3人はCくんの誘いにのり、展望台へ向かうことにしました。

 

30人クラスのうちの10名ほどが参加したと思います。何かあると大変だからと副担任の女性教師もついて来てくれました。

 

 

道中、右手にはお寺があり、その先にはお地蔵様が道沿いにズラリと並び、数える度に数が変わるなどという噂はありましたが、私は遠足のときはいつもお地蔵様を数えながら歩いており、毎回同じ数だったので、それはただの噂に過ぎないなと思っていました。

 

 

半分ほど登ったところに、小さな小屋がありました。

 

 

その前を通る時、Cくんが

 

「ここって昔、男の子が閉じ込められて中で死んだらしいよ」

 

そんな話をし始めました。

 

「そんな話聞いたことない」

「怖いからやめて」

 

チラリと顔を覗くと、怖がる仲間の姿にCくんはニヤリと満足そうに笑顔を見せていました。

 

 

あぁ嘘なんだな。意地悪いやつ。

 

そう思いながら頂上へとひたすら足を進めました。

 

 

ようやく頂上に到着し、さらに展望台の最上階へと階段を上りました。

 

 

展望台からは街が一望でき、夕焼けでオレンジ色に染まった街がとても綺麗でした。

 

 

展望台には特に面白いものもないので、一通り景色を見たところでそろそろ下山しようということになりました。

 

 

展望台を背に登山道へ足を踏み入れたところで、ドサッという音が背後から聞こえました。

 

 

振り返ると、Cくんがジッと展望台の方を見つめている。

 

 

「どうした?」

 

そう友人の1人が尋ねると、

 

 

「女の人が落ちてきた。たぶんKのお母さんだっだと思う」

 

 

そんなことを言い始めました。

 

 

Kくんはクラスで一番頭の良い子でしたが、お母さんは精神的な病気を抱えており、参観日や運動会にはいつもおばあちゃんが来ていました。

 

先生が急いで展望台に駆け寄りぐるりと一周したが、人どころがもの一つ落ちていなかったとのこと。

 

 

先程のこともあったので、自分が注目を浴びるために人を使ってまで悪い嘘をつくのかと、私はCくんに幻滅しました。

 

 

「大丈夫大丈夫、きっと気のせいでしょう。早く下山して花火の準備しよう!」

 

先生はそう言い、気を紛らすためにみんなで「さんぽ」を歌いながら下山しました。

 

 

無事、日が完全に落ちる前に下山することができ、花火を済ませてそれぞれテントで眠りにつきました。

 

 

 

それから数ヶ月後

 

 

 

Kくんが珍しく学校を休みました。

 

朝の会で、Kくんのお母さんが亡くなられたことがクラスメイトに告げられました。

 

 

死因は飛び降り自殺。

場所はY公園の展望台から。

 

 

あのときCくんが見たのは気のせいなんかではなかったのか、偶然の一致だったのか。

 

 

 

その事故以来、展望台は封鎖され、上ることはできなくなりました。

 

錆びつき朽ちた状態で山の頂上に今もポツンと佇んでいます。