むいしきのいしき

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【怪談】高架下のトンネル

こんばんは、山根こね子です。

本日は、怪談を1つ紹介します。

 

 

これは、私が大学生の時の話です。

 

 

当時、私は自宅から大学まで高速バスを利用して通学していました。

 

バス停は高速道路の本線上にあるため、行きは高架下からつながる階段を上り、上り車線側からバスに乗ります。帰りは下り車線側からバスを降りて階段を下り、高架下のトンネルを通って帰路に着きます。

 

階段は上り・下り共にかなり錆びが目立ち、そこらじゅうに蜘蛛の巣や虫の死骸がゴロゴロと。途中に設置されている公衆電話の上には色褪せた平成18年の電話帳が置かれており、あまり手入れされていないことが伺え、利用者の少なさを物語っていたように思います。

 

周りにはお店や民家がほとんどなく田園が遠くまで広がるその場所は、昼間の癒しの風景とは裏腹に夜になれば暗闇に包まれ、少し不気味な雰囲気がありました。

 

 

夏のある日、サークル活動で帰りが遅くなってしまった私は最終バスに乗りました。

 

平日の遅い時間だったため乗客はまばらで、車内は静寂に包まれており、眠るには最高の環境でしたが、寝過ごしてしまうと戻るバスもない時間なので、仕方なくボーッと窓の外を眺めながらバス停への到着を待ちました。

 

30分ほど乗ったところで目的地に到着し、いつも通り定期券を運転手に見せてバスを降りました。

 

ギシギシと階段を下り、ぼんやりオレンジ色の灯りがともる高架下のトンネルを歩きはじめました。

 

半分くらいまで来たところで後ろからタッタッタッと軽快に走る音が聞こえてきました。

 

「通り魔だったらどうしよう」なんてことを思いながら少し早歩きをしていると、自分の真後ろでピタッと音が止まり

 

 

「〇〇ちゃん!」

 

 

と、私の名前を呼ぶ声がしました。

 

 

驚きで一瞬ハッとしましたが、それは同じサークルに所属している男友達の声でした。

 

 

聞き覚えのある声に安堵のため息をつき、

「いやー、びっくりしたじゃんもー」

 

なんて言いつつ振り返ると、そこには誰もいませんでした。

 

 

 

「え?」

 

と辺りをキョロキョロしますが、20メートルほどのトンネル内には隠れるようなところもなく、そこにはただ高速道路を走る車の音だけが響いていました。

 

 

冷静に考えてみれば、その友人は大学の近くに住んでおり、私と同じバスに乗る理由などありません。

 

また、その夜そのバス停で降車したのは私だけでした。

 

 

再度恐怖を覚えた私はトンネルから走って飛び出し、震える足で家まで急いで帰りました。

 

翌日、念のために声の主である男友達に確認してみましたが、その時間にはもうとっくに家に帰っており、ゲームをしていたとのこと。

 

 

その日から、そのトンネルを通るときにはイヤホンが欠かせなくなりました。

 

また声を聞いてしまうと怖いので。

 

 

後日談ですが、その男友達は大学時代、ずっと私のことが好きだったという話を別の友人が教えてくれました。

 

もしかしたら、その男友達の私を想う気持ちが声に乗り、あの日トンネルの中に響いたのかもしれません。