【怪談】歌舞伎町には行けない
こんばんは、山根こね子です。
今日はヒト怖的な話を紹介します。
これは、知人のKさんから聞いた話です。
Kさんは当時、都内の中小企業で事務員として働いており、同じ部署にはKさんの他にI課長、新入社員のTさんが所属していました。
小さな会社だったため社員同士の仲が良く、最低月に1度は飲み会が開催されていたそうです。
会社から電車1本でいけるということもあり、会場が歌舞伎町になることは少なくなかったのですが、I課長はいつも決まって
「俺は歌舞伎町には行けないから」
そう言って、歌舞伎町での飲み会には一度も参加したことはありませんでした。
歌舞伎町中の飲み屋でツケが溜まっているとかヤクザと繋がりがあるとか色々な噂はありましたが、いつも穏やかで頼りになる課長に限ってそんなに危ない問題を抱えているはずがない。きっと奥さんが厳しい人なんだろう、そうKさんは思っていました。
ある年の秋
I課長が12月25日を以て退職する旨が、本人の口から伝えられました。
とても信頼していた上司だったのでショックではありましたが、体調を崩した父親の代わりに家業を手伝うことになったということで、受け入れざるを得ない状況。
「私が部署を守って行きます」
Kさんは涙ながらにI課長に誓いました。
課長の送別会の開催が決定し、新入社員のTさんが会場のセッティング担当になりました。
忘年会シーズンということもありどの飲食店も満席でなかなか席が取れず、Tさんの学生時代の友人が働く居酒屋でやっと1件予約が取れたとのことでした。
場所は歌舞伎町
事前に会場を知らされたI課長は一瞬渋い顔をしましたが
「最後だしいいか」
そうポツリと呟いたそうです。
12月25日、I課長の最終出勤日。
終業後、送別会のため予約している居酒屋へと向かいました。
電車を降りるなり、I課長は俯きながら目だけをキョロキョロと左右に動かし、まるで何かを警戒して歩いているように見えたそうです。
それでもお店につくと、課長は楽しそうにお酒を飲み、仲間との最後の時間を楽しんでいるようでした。
しかし二次会には参加せず、別れの挨拶もそこそこに逃げるように立ち去って行きました。
12月28日、年内最終営業日
Kさんの会社では毎年、その年の最終営業日に大掃除を行ったあと、現金でボーナスが支給されていました。
大掃除を終えたところで社長から声がかかり、
社長室に社員が集まりました。
経理部の部長が鍵を差しガチャリと金庫の重い扉を開けると、中は空でした。
社員全員分の総額約500万円のボーナスがまるっきりなくなっていたそうです。
一同騒然。
ひとまず警察を呼ぶことに。
封詰作業のため早めに銀行から現金を下ろし、24日には作業完了。
それから28日まで現金は金庫の中で管理していたが、封詰作業完了後から中を確認した者はいない。
金庫を開けられるのは社長と経理部の部長のみ。
まずはその2名が疑われ、指紋採取やポリグラフ検査(嘘発見器)などを行いましたが、疑わしいことはなかったそうです。
年明け、社員全員がポリグラフ検査を行ったそうですが、誰一人として怪しい者はいませんでした。
そして、金庫の中には何か固まった粘土のようなものが詰まっていたそうです。
ある日、Kさんは警察官からI課長についてかなりしつこく質問されたことがありました。
退職後どこで何をするか聞いていないか
連絡先が取れそうな手段はあるか
退職までの期間に何か怪しい動きはなかったか
そういったことでした。
退職後は父親の家業を継ぐと言っていたことを正直に話しました。
ところが、I課長のご両親は既に他界しており、生前の父親は会社勤め。家業は特に営んではいなかったとのこと。
Kさんの知っていた連絡先は携帯番号もメールアドレスも既に警察が入手していたもので、いずれももう使われてはいませんでした。
怪しい動き…
警察官に聞かれて、ふと思い出したことがありました。
I課長が退職する1週間ほど前から、たびたび社長室の掃除をしている姿を目撃していました。
「掃除なら代わりますよ」
声を掛けたこともありましたが、
「俺が社長に頼まれたことだから。すぐ終わるし大丈夫」
そう断られたため、それ以降は特に気にも留めていませんでした。
あの時、もしかしたら金庫の鍵の型を取っていたのか…?
警察にもその話は伝え、怪しい点が多いところからI課長が犯人の可能性が高い状況ではありましたが、証拠がいまいち不十分であることと本人の足取りが全く掴めていないことから、未だに犯人の逮捕には至っていないとKさんは仰っていました。
事件から数年が経ち、I課長がまだ在職していた頃に一度だけGmailでメールのやりとりをしたことがあったことを思い出しました。
お久しぶりです。お元気ですか?
そうメールを送ってみましたが、未だに返事はないそうです。